「左手でスプーンを持つけれど、右手に直したほうがいい?」
「文字を書く手だけでも右にしたほうが、学校で困らない?」
「祖父母から“左利きは直したほうがいい”と言われた」
子どもが左手をよく使うようになると、こんなふうに迷うことがありますよね。
先に結論からいうと、左利きそのものを欠点として、親が無理に右手へ直す必要はありません。
大切なのは「右手を使えるようにすること」より、その子が自然に使いやすい手を尊重し、必要に応じて道具や環境を整えることです。
この記事では、なぜ昔は左利きを右手へ直すことが多かったのか、利き手を変える研究から何が分かっているのか、文字・箸・はさみはどうすればいいのかまで紹介します。
内容の根拠となる研究論文や専門機関の資料もあわせて紹介しています。「どうしてそう言えるの?」と気になった方は、記事末の参考資料も読んでみてください。
・左利きそのものを無理に右利きへ直す必要はない
・「使う手」を練習で変えることと、利き手そのものが完全に変わることは同じではない
・矯正すると必ず吃音やチックになる、という強い因果関係は断定しない
・書字や道具の困りごとは、利き手を直すより環境調整で解決できることがある
・本人が自分から反対の手を使いたがる場合と、周囲が強制する場合は分けて考える
結論|左利きは無理に右へ直さなくていい
左手を自然に選んでいる子に対して、「右利きのほうが普通だから」「将来困るから」という理由だけで右手を強制する必要はありません。
NHS系の子ども向け支援資料でも、左手を好む子に右手を使わせようとしないこと、左利きであること自体に問題はないことが案内されています。[4]
前の記事で紹介したように、子どもの利き手はある日突然決まるわけではなく、成長とともに少しずつ一貫していきます。[5]
その途中で大人が先回りして「こっちの手」と決めるより、まず本人が自然に選ぶ手を観察することが大切です。
関連記事:子どもが左利きかも?利き手はいつ決まる?年齢別の見分け方と親ができること
なぜ昔は左利きを「直す」ことが多かった?
左利きを右利きへ変えようとする習慣は、国や世代によって程度は違いますが、実際に存在してきました。
たとえば台湾の左利き児211人を調べた2007年の研究では、対象となった左利き児のうち121人が右手への変更を強制されたと報告されています。[3]
ただし、これは当時の台湾で行われた調査です。現在の日本の子どもの割合を示す数字ではありません。
「文字は右手で書くもの」「食事は右手のほうが行儀がいい」「左手では道具が使いにくい」といった文化や生活環境も、右手への変更を促す背景になってきました。
今でも祖父母など上の世代から、「昔はみんな右に直したよ」と言われる家庭はあるかもしれません。
でも、「昔そうしていた」ということと、「今もそうする医学的・発達的な必要がある」ということは別です。
利き手を右に変えることはできる?研究から分かること
「練習すれば右利きにできるのでは?」と思う人もいるでしょう。
ここは少し丁寧に考える必要があります。
利き手を変更した人を扱った研究では、特定の動作を反対の手で練習することで、その動作を反対の手で行えるようになることはあります。
一方で、それを「元の利き手そのものが完全に反転した」と考えるのは単純すぎます。
2019年のレビューでは、利き手の変更にはかなりの練習や努力が必要で、調べられた行動指標や脳活動について完全な転換は報告されていないと整理されています。[1]
また、幼少期に左手書字から右手書字へ変更した成人を調べた研究では、書字以外では左手を好む人が多く、脳活動にも元々の左利きと変更経験の両方が反映されていました。[2]
つまり、
「右手で文字を書けるようになった」=「その人の利き手そのものが右へ完全に変わった」とは限りません。
だからこそ、子どもの自然な選択を否定してまで、すべての動作を右手にそろえることを目標にする必要はありません。
「左利きを矯正すると吃音・チックになる」は本当?
左利きについて調べると、「無理に矯正すると吃音になる」「チックが出る」「脳に悪影響がある」といった説明を見かけることがあります。
ここは断定しすぎないことが大切です。
利き手を強制的に変更した人を対象にした脳活動研究などは存在します。[1][2]
しかし、そこから、
「左利きを右に直すと、必ず吃音やチックになる」
とまで言うことはできません。
子どもの吃音やチックにはさまざまな要因が関係します。利き手の変更経験との関連を検討した研究があることと、それが直接の原因だと証明されていることは別です。
ですから「病気になるから絶対に直してはいけない」と怖がらせるより、
「本人が自然に使っている手を否定したり、失敗を叱ったり、無理に反対の手だけを使わせたりする必要はない」
と考えるほうが実用的です。
文字・箸・はさみはどうすればいい?
左利きの子を育てていると、「左利きのままだと生活で困らない?」という心配も出てきます。
実際、世の中には右利きを前提に作られた道具や環境があります。
でも、そのたびに利き手を右へ直す必要があるわけではありません。
困っている動作ごとに、道具や置き方を調整してみましょう。
文字を書く
左手で文字を書くと、手が書いた文字の上を通りやすかったり、鉛筆を押す方向になったりして、書きにくさを感じる子がいます。
NHS系の支援資料では、左利きの書字について、紙の位置や角度を調整する方法などが紹介されています。[4]
大切なのは「右手で書かせる」ことより、左手で書きやすい姿勢を見つけることです。
机や椅子の高さ、紙の位置、鉛筆の持ち方なども一緒に確認してみましょう。
箸・スプーン
食事も、本人が自然に使いやすい手を基本にしてかまいません。
大人が箸の使い方を見せるとき、右利きの親と左利きの子では鏡写しのようになるため、動きをまねしやすい場合もあります。
家族と肘がぶつかるなら座る位置を変えるなど、「手を直す」のではなく食卓側を調整する方法もあります。
はさみ・道具
はさみは左右で刃の重なり方が異なる製品があります。
左利き用や左右兼用の道具を使うだけで、見え方や切りやすさが変わることがあります。
学校や家庭で「なぜかうまくできない」と感じたときは、本人の能力だけでなく、道具がその子の手に合っているかも確認してみてください。
関連記事:左利きの子どもが困りやすいこと15選|家庭・学校・外出先
祖父母や学校から「右に直したほうがいい」と言われたら
親自身は左利きを気にしていなくても、祖父母や周囲から「右に直したほうが将来楽だよ」と言われることがあります。
そんなときは、相手を責める必要はありません。
世代によっては、実際に「左利きは右へ直すもの」と教えられて育った人もいます。
まずは、
「今は無理に右手へ直すのではなく、本人が自然に使いやすい手を見ながら育てることにしているよ」
と家庭の方針を短く伝えるだけでも十分です。
学校や園で右手を使うよう繰り返し指導されている場合には、
・どの活動で困っているのか
・本人はどちらの手を自然に選んでいるのか
・左手のまま環境を調整できないか
を先生と一緒に確認してみましょう。
「左手だから困る」と決めつけず、具体的に何が困っているのかを見ることがポイントです。
親が家庭でできる5つのこと
1.本人が自然に選ぶ手を観察する
食事、描画、歯磨き、ボール遊びなど、複数の活動を見てみましょう。
ひとつの動作だけで「左利き」「右利き」と急いで決める必要はありません。
2.道具を体の中央に置く
最初から右側・左側へ置かず、自分で取りやすい手を選べるようにします。
大人が無意識に右手側へ渡してしまわないこともポイントです。
3.左手で使いにくい道具がないか確認する
はさみ、定規、鉛筆削りなど、本人ではなく道具側が「やりにくさ」の原因になっていることもあります。
うまくできないときほど、「この道具は左手でも使いやすいかな?」という視点を持ってみてください。
4.「左はダメ」と言わない
利き手を性格や行儀の良し悪しと結びつけないようにします。
左手を使ったこと自体を注意するのではなく、必要ならその動作そのものを教えてあげましょう。
5.困りごとは動作ごとに解決する
「左利きだから全部困る」と考える必要はありません。
文字なら紙の位置、食事なら座席、はさみなら道具というように、具体的な困りごとごとに対応していくほうが解決策を見つけやすくなります。
よくある質問
右手も練習させるのはダメ?
本人が遊びや生活の中で右手も使うこと自体は問題ありません。
大切なのは「左手を使ってはいけない」と禁止したり、失敗しても右手だけを使わせ続けたりしないことです。
両手を使う活動もたくさんあります。本人が自然に取り組める範囲なら、「右手を使った=矯正」と考える必要もありません。
文字を書く手だけ右にするのは?
本人が自分から右手で書きたがり、それが楽なら、一律に止める必要はありません。
一方、左手のほうが自然なのに「文字だけは右」と大人が固定する必要もありません。
書字だけを右手へ変更した人を調べた研究でも、書字以外の手の好みまで単純に右へ変わるわけではないことが示されています。[2]
左右を頻繁に持ち替える場合は?
幼児期は、活動によって使う手が違ったり、左右を持ち替えたりすることがあります。[5]
「早くどちらかに決めなきゃ」と焦らず、道具を体の中央に置き、いろいろな活動で自然に選ぶ手を観察してみてください。
利き手がいつごろ分かるのかについては、記事①で年齢別に詳しく紹介しています。
関連記事:子どもが左利きかも?利き手はいつ決まる?年齢別の見分け方と親ができること
まとめ|「直す」より、その子が使いやすい環境をつくろう
子どもが左手を自然に選んでいるなら、左利きそのものを欠点として右手へ直す必要はありません。
特定の動作を反対の手で練習することはできますが、それと利き手そのものが完全に変わることは同じではありません。[1][2]
親ができるのは、
・本人が自然に選ぶ手を見守る
・左右どちらも選べるように道具を置く
・左手で使いにくい道具や環境を調整する
・「左はダメ」と否定しない
・困りごとを動作ごとに解決する
ことです。
右手に合わせることをゴールにするのではなく、その子が「できた」と感じられる環境を増やしていきましょう。
左利きのミカタでは、左利きの子どもと家族が、無理に周囲へ合わせるのではなく、自分に合った方法を選べるよう、道具や生活の工夫を紹介していきます。
次に読む
→ 子どもが左利きかも?利き手はいつ決まる?年齢別の見分け方と親ができること
→ 左利きの子どもが困りやすいこと15選|家庭・学校・外出先
参考文献・資料
[1] Marcori AJM, Monteiro PHM, Okazaki VHA. Changing handedness: What can we learn from preference shift studies? Neuroscience & Biobehavioral Reviews. 2019;107:313-319. PMID: 31521700.
[2] Klöppel S, et al. Can left-handedness be switched? Insights from an early switch of handwriting. Journal of Neuroscience. 2007. PMCID: PMC6672868.
[3] Meng LF. The rate of handedness conversion and related factors in left-handed children. Laterality. 2007;12(2):131-138. PMID: 17365629.
[4] Bedfordshire and Luton Children’s Health. Getting ready to write. Reviewed 1 November 2024.
[5] Scharoun SM, Bryden PJ. Hand preference, performance abilities, and hand selection in children. Frontiers in Psychology. 2014;5:82. PMID: 24600414.



コメント